100年残る可動堰をつくる!
日本の土木事業史に残る「大河津可動堰プロジェクト」

▲ (IHIインフラシステム様 提供)

「大河津分水(おおこうづぶんすい)」は古くから水害が多かった越後平野を守るため、信濃川に設置された分水路です。そこに設置されている「大河津可動堰(かどうぜき)」は、水門の開閉によって水流をコントロールする洪水調整の役割を果たしています。伊東商会は、老朽化した可動堰の改築工事にあたり、水門部分の開閉を司る「油圧シリンダ」の調達を担当。日本の土木事業史に残る歴史的プロジェクトに携わることになりました。

新しい可動堰ゲートの心臓部となる「油圧シリンダ」

▲ 「設置された油圧シリンダ」(伊東商会 撮影)

昭和6年(1931年)から稼働を続け、老朽化が進んだ大河津可動堰。改築工事を担当することになったのが株式会社IHI様でした。

「一般的な可動堰の耐用年数が50年程度といわれる中、80年近く稼働していた長寿の大河津可動堰は、地域の歴史を象徴する存在。改築工事にあたり目標とされたのは、それをさらに超える“100年耐えうる可動堰をつくること”でした」(IHIご担当者様)

景観にも配慮し、改築後の可動堰では水門を引き上げて開閉するのではなく、高さも抑えられる回転式の「ラジアルゲート」を導入。その心臓部となるパーツが、開閉操作を行う「油圧シリンダ」です。円柱状の油圧シリンダは直径約1m、長さ10m以上と巨大なもの。このサイズの油圧シリンダは日本国内で製造を行っているメーカーがなく、IHIご担当者様は水門の建設技術が進んでいるヨーロッパを中心にメーカーを数社リストアップし、海外調査の計画を立てました。

伊東商会にとっても例のない新しいチャレンジ

▲ 「性能テスト中の様子」
(北陸地方整備局 信濃川河川事務所様 提供)

伊東商会が可動堰の改築プロジェクトに関わるようになったのは、年始の挨拶でIHI様に出向いたときにこの話を耳にするという、偶然の出来事がきっかけでした。プロジェクトの話を聞いた井上がIHI様に紹介したのは、油圧機器の専門メーカーであるイートン株式会社です。

「“油圧のスペシャリスト”ともいえるイートン社は、世界各国に支社を置くグローバル企業。油圧シリンダはオランダの工場で製造されており、ヨーロッパ各地のさまざまな国から優れた材料・部品を調達できます。間違いなくIHIさんの事業に貢献できる確信がありました」(井上)

当初イートン社のオランダ工場を訪問する予定のなかったIHIご担当者様は、井上からの提案には内心驚いたといいます。

「IHIと伊東商会は長い付き合いですが、油圧シリンダを扱っているイメージがなかったのです。井上さんからの熱心な提案を受け、海外調査の際にイートン社の工場にも足を運んでみることにしました」(IHIご担当者様)

当時の伊東商会にとって油圧シリンダの提案は初めての経験。受注すれば数億円規模の巨額な案件になります。これは担当者の井上にとっても大きなチャレンジでした。

実績はなくとも、誠実さと熱意が受注の後押しに

▲ 「性能テスト中の様子」
(北陸地方整備局 信濃川河川事務所様 提供)

メーカー選定においてIHI様が何よりも重視していたのが、受注後のアフターサポートでした。長期的な運用を視野に入れていることもあり、海外調達といえども、国内調達と同じようなサポート体制が求められていたのです。

ヨーロッパの各メーカーを訪問する中、井上と共にイートン社のオランダ工場を訪れたIHIご担当者様。プレゼンテーションは受けた際に、強く印象に残る出来事があったといいます。

「オランダ工場の担当者がプレゼンをしてくれたのですが、終了後、部屋に備え付けられていた小さなスピーカーから突然、『ありがとうございました!』という声が聞こえてきたんです。実はプレゼン中もずっと日本のイートン社とつながっていたのです。時差を考えると向こうは真夜中の3時頃。これには驚いたと同時に、大変な熱意を感じました」(IHIご担当者様)

それは、プレゼンを行う中でIHI様とオランダ工場の認識に食い違いが起きたときに、すぐにリカバリーできるようにと伊東商会とイートンの日本支社が相談して決めた措置でした。それ以外にも、仕様に合わせた詳細な図面をあらかじめ準備してプレゼンテーションに望むなど、後発で参入した遅れを取り戻すために力を尽くしました。

「井上さんは普段も私からの要望や問い合わせに対して、翌日には返答する“ワンデーレスポンス”を心がけてくれました。伊東商会は油圧シリンダの実績はありませんでしたが、そうした誠実さの積み重ねや、オランダ工場に訪問したときに感じた熱意が、受注を後押しする大きなきっかけになりました」(IHIご担当者様)

日本の土木事業史に残る大プロジェクトに貢献

プロジェクトの中でも最大でもっとも重要な調達であるため、IHI社内でも検討を重ねた結果、イートン社と伊東商会の提案が採用され、無事受注が決定しました。受注後もIHIご担当者様と井上は、製造工程の確認やヨーロッパ各国から調達した材料の品質チェック、進捗状況の管理なども踏まえて、何度もオランダ工場に足を運びます。納期直前には3週間ほど現地工場に常駐し、他のプロジェクトメンバーや現地の技術者たちと寝食を共にしながら、最終検査を行いました。その甲斐もあり、無事に油圧シリンダは納品され水門に設置されます。

▲ 「出荷前の一時仮置きの様子」
▲ 「2011年7月 新潟・福島豪雨」(IHIインフラシステム様 提供)

ところが、水門の試運転が完了していない段階で大きな危機が訪れます。信濃川の上流にあたる新潟県と福島県を集中豪雨が襲い、大河津分水も増水に見舞われたのです。水門が開かなければ、大きな被害にもつながりかねません。しかし、ぶっつけ本番の運転にも関わらず、水門は見事に全開まで開き、被害は最小限に抑えられたのです。油圧シリンダの品質が証明された瞬間でもありました。こうして大きなピンチを乗り越えた新しい可動堰は、2011年11月に完成します。

「集中豪雨のときはお客様(北陸地方整備局)から本当に感謝されましたし、完成後の式典で可動堰を一時開放したときには地元の方から労いの言葉をかけていただいて、それまでの苦労が報われた気持ちになりました」(IHIご担当者様)

▲ 「2011年10月 完成前の状況(右岸から撮影)」(IHIインフラシステム様 提供)

大河津可動堰の成功は、IHI様の水門事業の業績上昇にもつながり、伊東商会にも感謝状が授与されました。日本の土木事業史に残るといわれる今回の大プロジェクトを振り返り、井上は次のように語ります。

「クライアント、メーカー、そしてその間に立つ商社が、主従関係ではなく平等な立場として力を合わせ、一つの大きなものをつくりあげる。そんな理想的な関係が今回のプロジェクトでは構築できました。このような関係を継続できたことを、とても嬉しく思います。そのために私たち伊東商会も、今後のメンテナンスなども含め、最大限の努力を行っていきます」(井上)

取材協力: 北陸地方整備局 信濃川河川事務所 様
株式会社IHIインフラシステム 様